退職した時に健康保険を選ぶ基準は保険料です。
できるだけ安い健康保険に加入したいと思うはずです。
そこで国民健康保険を選んだ方がいい人について説明します。
本記事は、筆者『まどわく』が住んでいる市町村を参考にしています。
離職理由によって「国民健康保険」の軽減制度が利用できるかは、お住まいの市町村によって違うかもしれません。多くの市町村で利用できる制度だと思うので確認してください。
『まどわく』が定年後に健康保険を選んだ手順については関連記事で解説しています。
国民健康保険を選んだ方がいい人
75歳未満の方が会社退職後に加入する健康保険は次の3つが主なものです。(75歳以上は後期高齢者医療制度の被保険者になる)
健康保険の種類 | 保険の特徴 |
---|---|
任意継続制度 | ・会社で加入していた保険に2年間だけ継続加入できる ・2年間保険料は同額 ・一度辞めると再加入できない ・保険料は会社員時代の約2倍(上限のある組合もあり) ・追加料金なく扶養者を被保険者にできる |
国民健康保険 | ・誰でも加入できる健康保険 ・保険料は世帯の加入人数により増減する ・条件次第で軽減申請できる |
家族の健康保険 の扶養に入る | ・家族等に扶養される場合に無料で加入できる ・一定以上の収入があると扶養に入れない |
国民健康保険に加入した方がいい人は、次の2つを満たす人です。
・家族の健康保険の扶養に入れない人
・国民健康保険の軽減申請(減免申請)できる人
この後に各々について説明します。
国民健康保険の軽減申請とは
国民健康保険の軽減申請とは何かについて説明します。
国民健康保険の保険料算定
軽減申請の前に国民健康保険の保険料算定について概要を説明しておきます。
保険料区分
令和6年度の国民健康保険は、医療費分、後期支援分、介護分の3つの負担をまとめたものになっています。(資産割もありましたが令和5年には廃止されており、資産割の廃止に伴う保険料減少分は、所得割、均等割、平等割に配分されています)
保険料区分 | 内容 |
---|---|
医療費分 | 医療費を保険で賄うための財源(7〜8割など) |
後期支援分 | 後期高齢者医療制度を支援するための保険料(74歳以下が負担) |
介護分 | 介護が必要になった場合のための保険料(40〜64歳が負担) |
保険項目
国民健康保険の計算では、上記の保険料区分について、所得割、均等割、平等割の3つの項目について計算します。
保険項目 | 内容 |
---|---|
所得割 | 所得に応じた保険料 |
均等割 | 人数に応じた保険料 |
平等割 | 世帯毎に平等に負担する保険料 |
保険料の計算
健康保険料は、保険料区分毎に保険項目の保険料を計算し合計したものになります。
各保険料計算の目安を下表にまとめます。
令和6年度の基礎控除は43万円(法律で一律)
その他は、計算方法が同じでも掛け合わせる%や一定額が自治体によって違います。
令和6年度の上限額は、106万円[ 医療費分65万円、後期支援分24万円、介護分17万円 ]です。
保険料区分 | 所得割 | 均等割 | 平等割 |
---|---|---|---|
医療費分 (上限65万円) | 前年所得-基礎控除 (7〜10%前後) | 一定額(3万円前後) x 加入人数 | 一定額 (3万円前後) |
後期支援分 (上限24万円) | 前年所得-基礎控除 (2〜3%前後) | 一定額 (1万円前後) x 加入人数 | 一定額 (1万円前後) |
介護分 (上限17万円) | 前年所得-基礎控除 (2〜3%前後) | 一定額(1万円前後) x 加入人数 | 一定額 (1万円前後) |
国民健康保険料の計算例
国民健康保険料の計算例を示します。
次表の掛け率が設定されている自治体を仮定とします。
保険料区分 | 所得割 | 均等割 | 平等割 |
---|---|---|---|
医療費分 (上限65万円) | 10% | 3万円 x 加入人数 | 3万円 |
後期支援分 (上限24万円) | 3% | 1万円x 加入人数 | 1万円 |
介護分 (上限17万円) | 2% | 1万円 x 加入人数 | 1万円 |
この場合、所得毎の国民健康保険は次のようになります。(1万円単位で丸めた概算)
保険料区分 | 所得300万円 | 所得600万円 | 所得900万円 |
---|---|---|---|
医療費分 (上限65万円) | 37万円 | 62万円 | 65万円 (上限) |
後期支援分 (上限24万円) | 14万円 | 23万円 | 24万円 (上限) |
介護分 (上限17万円) | 10万円 | 16万円 | 17万円 (上限) |
合計 | 61万円 | 101万円 | 106万円 (上限) |
国民健康保険の軽減条件
国民健康保険を軽減してもらうには、いくつかの条件があります。
1)法令により定められた世帯所得基準を下回る場合
退職された方は、前年の所得が低所得に該当する場合はほとんど無いと考えられますが、該当する場合は特段の申請をしなくても軽減されます。
前年の所得が低い世帯は、法律で軽減されます。
確定申告や年末調整などをしていれば、役所で認識できるので申請しなくても適用されます。
令和6年度の基礎控除は43万円(法律で一律)なので、世帯の所得が43万円以下であれば所得割は0になります。また、均等割、平等割も所得区分によって減額率が設定されています。
所得区分 | 所得割 | 均等割 | 平等割 |
---|---|---|---|
43万円以下 | 0 | 7割減 | 7割減 |
43万円+ 29万円x被保険者数以下 | 所得から 計算 | 5割減 | 5割減 |
43万円+ 53.5万円x被保険者数以下 | 所得から 計算 | 2割減 | 2割減 |
2)自治体毎の軽減条件に合致し申請した場合
低所得に該当しなくても、自治体の定める軽減理由に該当する場合は申請によって軽減が可能です。
自治体の定める軽減理由は、各人にお知らせしてくれないので、内容をキャッチして該当有無を確認しなければなりません。
軽減理由には、『震災・風水害・火災などの被災、退職・倒産・休廃業などの非自発的失業、営業不振、産前産後期間、未就学児』など自治体毎に定められています。(産前産後期間は免除が多い)
この中で退職者の多くが該当しそうな軽減理由としては、『退職・倒産・休廃業などの非自発的失業』になります。
仕方なく退職したと言う非自発的失業です。
国民健康保険軽減対象『非自発的失業』
「国民健康保険」の軽減制度の対象となる非自発的失業とは、離職理由が『特定受給資格者』や『特定理由離職者』に該当する場合です。
『特定受給資格者』『特定理由離職者』とは
『特定受給資格者』と『特定理由離職者』は、ハローワークが離職票をもとに決定する離職理由ですが、雇用保険に非加入の場合でも相当する理由があれば軽減申請できます。
1)特定受給資格者
離職理由 コード | 離職理由 |
---|---|
11 | 解雇 |
12 | 天災等の理由により事業の継続が不可能になったことによる解雇 |
21 | 雇止め(雇用期間3年以上の雇止め通知あり) |
22 | 雇止め(雇用期間3年未満更新明示あり) |
31 | 事業主からの働きかけによる正当な理由のある自己都合退職 |
32 | 事業所移転等に伴う正当な理由のある自己都合退職 |
2)特定理由離職者
離職理由 コード | 離職理由 |
---|---|
23 | 期間満了(雇用期間3年未満更新明示なし) |
33 | 正当な理由のある自己都合退職 |
34 | 正当な理由のある自己都合退職(被保険者期間12ヶ月未満) |
厚生労働省のサイトに「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」が書かれています。
軽減申請でどのくらい安くなる?
非自発的失業者となった場合に、軽減申請でどのくらい安くなるかについて説明します。
全国の自治体で非自発的失業者に対する制度を確認した結果、多くの自治体で同様な制度を採用しているようなので紹介します。
非自発的失業者になった場合、前年の給与所得が7割減で計算されます。(給与所得とは、給与収入から控除額を差し引いたもの)
例えば、前年の給与収入が500万円だった人の場合で説明すると
給与収入=500万円
給与所得控除額=500万円×20%+44万円=144万円
給与所得=500万円-144万円=356万円
給与所得は356万円となり、7割減の106.8万円に換算して保険料を計算します。
ただし、給与所得は7割減で計算されますが、その他の所得は減額されません。
給与所得のみであれば、「国民健康保険」保険料が3分の1程度に軽減されます。
軽減の有効期間は、加入月の当年度から翌年度末まで(最大2年)が対象となります。
軽減有無による保険料の違い
自治体および年度によって掛け率や均等割額が違うため、正確にはお住まいの市町村役場の国民健康保険窓口で試算してもらえます。
その場合、源泉徴収票または確定申告書の控えを持っていくと計算が早く進みます。
例として、給与所得356万円(給与収入500万円)の場合について、軽減有無による保険料の違いを示します。(給与所得とは、給与収入から控除額を差し引いたもの)
前述した「国民健康保険料の計算例」で仮定した自治体の設定(下表)で計算します。
保険料区分 | 所得割 | 均等割 | 平等割 |
---|---|---|---|
医療費分 (上限65万円) | 10% | 3万円 x 加入人数 | 3万円 |
後期支援分 (上限24万円) | 3% | 1万円x 加入人数 | 1万円 |
介護分 (上限17万円) | 2% | 1万円 x 加入人数 | 1万円 |
給与所得356万円で軽減申請した場合、所得が30/100の106.8万円で計算され、軽減無に対して半分以下に減額してもらえます。(※年間金額を1万円単位で表示)
項目 | 軽減無 | 軽減申請有 |
---|---|---|
給与所得 | 356万円 | 106.8万円 (356万円X0.3) |
(A)国民健康保険 医療費分 | 35万円 | 14万円 |
(B)国民健康保険 後期支援金分 | 13万円 | 5万円 |
(C)国民健康保険 介護分 | 9万円 | 4万円 |
保険料計 (A)+(B)+(C) | 57万円 | 23万円 |
軽減申請する場合の退職理由
上記の通り、国民健康保険の軽減申請したい場合、離職理由は密接な関係が出てきます。
離職理由は退職時に会社が離職票に記入します。
通常、離職票には記名が必要なので確認できるはずです。
会社の担当者によって、離職理由を確認される場合もあれば、説明されない場合もあると思います。
非自発的退職であると考えている場合は、会社と話し合い『特定受給資格者』や『特定理由離職者』に該当する理由にしてもらいましょう。
もし、自己都合退職であっても、ハローワークで非自発的退職であることを説明する努力をすることで『特定受給資格者』や『特定理由離職者』に該当する離職理由にしてもらえる場合もあります。
健康保険は、軽減有無で年間数十万円の差になる場合もあるので、諦めないで粘ってみましょう。
国民健康保険の軽減申請方法
会社員時代に加入していた健康保険は、基本月単位で辞めることになります。
事前に連絡しておけば、健康保険証を返却する際に「健康保険の資格喪失証明書」をもらえます。
その後、14日以内に市町村役場で「国民健康保険」に加入手続きをします。
非自発的退職である場合、届出に必要なものは次の通りです。
・ハローワーク発行の「雇用保険受給資格者証」
・マイナンバーカード
・健康保険の資格喪失証明書
・保険料を引き落としする場合:口座のわかるもの(通帳など)
・金融機関届出印
記入が必要な書類「減額申告書など」は窓口で渡され、担当者に教わって記入します。
健康保険証は、基本的に当日発行してもらえます。ただし、郵送交付の自治体の場合は1週間程度かかることもあるようです。
退職後14日以内に手続きすることは法律で決まっていることなので忘れないようにしましょう。
その期間内に病院に罹った場合、最終的には保険負担分は清算されるので安心してください。
国民健康保険の支払い方法
国民健康保険の支払い方法は、自治体により異なります。
保険料は年度毎(4月から翌年3月)の料金を算定しますが確定申告の取りまとめ時期の関係で4月・5月には保険料が確定していません。
よって、多くの自治体では6月以降に一括または数回に分けて支払うかを選択する形になります。
支払い方法も様々で、
・口座振替
・納付書
・年金から差し引き
などがあります。
軽減2年度目の考え方
退職後に国民健康保険で軽減された場合、2年度目まで軽減対象になります。
再就職した場合の給与所得は70%減額計算されますが、それ以外の所得については減額計算されませんので、給与以外の所得が多くなる方は注意しましょう。
最後に
定年退職した後の健康保険は、家族の扶養に入ることが一番安くなりますが、通常は任意継続制度が有力な検討先だと思います。
しかし、非自発的退職である場合は、国民健康保険の軽減申請を選択できるかもしれません。
退職時点に離職票の離職理由を確認して、非自発的退職であれば『特定受給資格者』や『特定理由離職者』に該当するように記入してもらいましょう。
健康保険は失効期間が14日間許容されていますが、無保険になるのはリスクです。
時間が足りない場合、一旦、任意継続制度を利用し、数ヶ月後好きなタイミングで国民健康保険に切り替えることも可能です。
しっかり比較検討し、節約して退職後を乗り切りましょう。